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『萌芽』
メールマガジン女帝の密室 2016年8月配信号より



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お盆休みに里帰りをし、年に数度しか寄らない地元の駅に降りた途端、
とても懐かしい顔を見つけた私は、彼に声をかけずにいられなかった。

「こんにちは、T先生、ですよね。わあ!お久しぶりです!」

白髪はずいぶん増えたものの、立派なスーツを着こなした
紳士然とした姿には、少しも変わりがなかった。
先生は、突然話しかけられて驚いた様子だったが、
名前を告げると、すぐに思い出してくれたようで、その微笑みを私に向けた。
T先生は、私が小学6年生だった頃の担任である。受け持ちは社会科だった。
スマートな振る舞いと、きっちりしたスーツ姿が子供から見てもハンサムで、
生徒、とくに女子からはとても人気があった。

「思い出してもらえて良かったです」
「よく覚えていますよ、君はよくできた生徒だったから」
「ふふ、本当に嬉しい。私はすぐに先生だって分かりましたよ」

だって、忘れられないから。
そう言いたくなって、私は先生をじっと見つめた。
先生は私にとって、限りなく初恋に近い憧れを、サディズムに変えた人だから。

小学6年生の頃の私は、大変なマセガキで、
なんの経験もないくせに、知識と興味は一人前だった。
仲の良い女友達と一緒になって、発情したサルのような同級生に
気のある素振りをしてみせ、告白させては振ったり、
わざとセクシュアルな話題を向けてみたりして、笑っていた。
カップがCになっただの、生理が来ただの、誰にいやらしいことを言われただのと、
マセガキな上に性格も悪かったが、顔はそれなりで、
成績も家庭環境も良かったために、先生受けはとても良かった。

悪童であった私たちと、その取巻きの男子のグループで流行っていた遊びが、王様ゲームだった。
どこで覚えたのかは忘れてしまったが、放課後、誰かの家に集まっては割りばしを引き、
尻をたたく、パンツを見せる、男子には強制女装をさせるなどしていた。
そこには幼い私たちの、拙いサディズムがあったように思えるが、
引き起こされるのは痴態による笑いであり、単なる遊興だった。

ある日の昼休み、王様ゲームが流行っているという話を先生にしたのだと思う。
そして、数人の生徒と先生で、王様ゲームをやることになった。
その時、誰と一緒で他にどんな事をしたかは忘れてしまったけれど、ただ一つ覚えているのは、
私が先生の頭を踏みつけた、その瞬間のことだ。

X番は王様に土下座して頭を踏まれる、と命令したとき、
先生は笑いながら、靴は脱いでくれよと言ったように記憶している。
同級生の頭はそれまでいくらでも踏めたのに、先生を踏むと思うと緊張した。
上履きを脱ぎ、靴下を、跪いた先生の髪にそっと触れる程度に当てたとき、
友達らは大いに笑い、私も笑いながら、胸は破裂するほどに高鳴っていた。

当時は、その緊張と動悸が、先生に対する憧れや照れだと思っていた。
中学に入り、高校生になり、性衝動や肉欲が題材の小説を読み耽り、
それらしい恋や性体験を重ねても、あの高鳴りと同じものは生じなかった。

どうして先生があんな下品な遊びに付き合ってくれたのか。
どうして立派な大人の男が、小生意気な女子生徒に跪いたのか。
どうして笑って頭を踏みつけられてくれたのか。
どうして、あれが忘れられないのか。

ひとつの答えが出たのは、私が女王様になってからだ。
ハンガーにかけられたスーツ、丸く土下座する白い背中、整髪料で整った頭。
「ご挨拶」という形式ではなく、跪いている男の姿そのものにサディズムが高まり、
私は毎度必ずその後頭部を踏みにじっていることに気付いた。
土下座をする奴隷たちの姿は、私にとって、あの日の先生の影写しである。
大人が子供にひれ伏す、先生が生徒に跪く、
非教育的で不道徳な行為を私にさせ、興奮に転換したのは、先生なのだ。

どうして、私を覚えていてくれたのか。

そう聞きたくて、私は更に沈黙を重ねた。
先生はあんなこと、忘れてしまっているかもしれない。
だけれど、もしかしたら、今の私ならば。
一遍通りの世間話をし始めた先生を遮って、私は勝負をかける。

「暑いですから、よければ一杯お茶でもしませんか?先生」

頷いた先生の眼差しには、あの日よりも精悍な色気があるような、気がした。



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